Excel 全般

Excelの歴史(前編)

Excelの歴史

Excel の誕生 ~ グローバルスタンダードになるまで

 前編では、Excelがどのように誕生し、どのようにして世界標準の表計算ソフトとなったのかを追っていきます。

1.はじめに

 Excelの開発・発展の経緯を書いても、現在のExcelユーザーには余り参考になる内容ではないかも知れません。自分の覚えとして、ソフト開発業界の栄枯盛衰を記録しておきたいと思います。

 30年以上の間、Excelは、Windowsと共に発展を続けてきており、両者は切っても切れない関係にあります。「とにかくExcelは素晴らしい」と自他共に認めるところではありますが、それを支えているのがWindowsですので、極端で飛躍した言い方になりますが「WindowsというOSは、Excelのためにある!」とさえ言える、と自分は思っています。
 なぜ、そう言えるのか? ・・・

 パソコン黎明期に、ワープロよりも最初に開発されたのが表計算ソフト(スプレッドシート)です。数値計算の自動化がビジネスの効率化に直結するからです。この表計算ソフトのお陰で、パソコンは普及し、ビジネスに利用されるようになりました。今やグローバルスタンダードとなっているのがExcelですが、その歴史を知ることは、パソコンの歴史を知ることでもあります。

2.Excel以前の表計算ソフト

 アメリカでは、1979年にAppleⅡ(Macintoshより前のApple製の機種)用の表計算ソフト「VisiCalc(ビジカルク)」が発売され、表計算ソフトがビジネスで広く使われはじめました。
 Microsoftは、1982年、AppleⅡ及びCP/M(OS)向けに「Multiplan(マルチプラン)」を発売しました。当初の売れ行きは順調でしたが、翌年の1983年に、IBM-PC用の「Lotus1-2-3 (ロータスワン・ツー・スリー)」が発売されると苦戦を強いられます。Multiplanは、多機種への移植性を考慮してC言語で開発されていて、アセンブリ言語で書かれていたLotus1-2-3に比べ動作が遅かったためです。機能と軽快な動きにより、Lotus1-2-3はたちまち大ヒットとなり、Lotus1-2-3はVisiCalcを追い越し、一挙にシェアトップとなりました。
 Lotus1-2-3の人気は、IBM-PC(1981年発売、後にPC/AT互換機(=DOS/V機)となる初代機)とその互換機の販売をも押し上げ、その結果、IBM-PCがその後のパソコン標準機(WindowsPC)になったという話があります。
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 一方、日本では、ビジネスパソコン(PC-9801)が発売されたのが1982年。その1年後にPC-9801のMS-DOS用に移植された表計算ソフト「Multiplan日本語版」がASCIIから発売されました(日本Microsoft社からは1986年に「Multiplan ver2.0」が発売された)。Multiplanは、Lotus1-2-3の他機種への移植が遅れたこともあり、日本の市場では比較的善戦しました。

 Multiplanは、当時としては良くできたソフトで、統計処理などに威力を発揮し、キャラクターベースのソフトではありましたが、大変使い易いソフトだったと記憶しています。自分のPC-9801に仕事での活躍の場を与えてくれた最初のソフトでもありました。
 余談ですが、当時はワープロといえば、ワープロ専用機(富士通 OASYS、NEC 文豪、シャープ 書院など)が使われ、パソコン用の「一太郎」が誕生(1985年)したばかりの頃です。

 1986年、処理が早く、操作性も良い「Lotus1-2-3 R2日本語版」が登場し、Multiplanのシェアは次第に低下していきます。そして、日本でもLotus全盛の時代となりました。
 NEC PC-9800シリーズを中心にMS-DOSパソコンが少しずつ普及していく中で、ワープロソフトはジャストシステムの一太郎、表計算ソフトはLotus1-2-3を使うことで、パソコンが広く社会に認知されいく時代でした。

3.Mac版として「Excel ver1.0」誕生

 アメリカでは、Lotus1-2-3の独走が続く中、表計算ソフトで遅れを取っていたMicrosoft社は、初期段階ではIBM PC-AT互換機(MS-DOS用)アプリケーションとしてMultiplanとは違う新しいコンセプトのソフト(Excel)を開発予定でした。これは、テキストモードで動作するが、マウス対応、複数のワークシートを同時に表示できるなどの機能を考えていたようです。
 ところが、1984年、Lotus1-2-3のヒットで成功を収めたロータス社がMacintosh用の統合ソフトの開発計画を知ると、これに対抗して、GUI環境で動く優れた操作性を有するソフトとしてApple社のMacintosh版を開発することに方針転換をします。
 そして、1985年、Macintosh版「Excel 1.0」が発売されました。後に多くのアブリで採用されることとなった印刷プレビュー機能が初めて導入されるなどして、このExcelはベストセラーとなります。
 それから2年後の1987年、処理速度と操作性の改善、1-2-3とのファイル・マクロの相互変換機能を搭載して、Windows版では最初の「Excel 2.0」が、「Windows2.0」と一緒に発売となりました。Excel2.0は好評を博し、「どの機能をとっても、Excelは1-2-3より優れている」と大変高い市場評価を得て、Lotus1-2-3の独占的シェアを脅かす存在となっていきます。

1900年は閏年か?

~~ Lotus1-2-3との互換性をそこまで意識していた! ~~

 日付データの扱いについて、Windows版Excelでは、1900年1月0日を起算日として、0から始まるシリアル値(連続値)で日付データを持っています。
 実際にワークシート上で、0からの連続データを日付の表示形式にしていくと、1900年1月0日で始まり、1900年の2月28日の次の日は2月29日と表示されます。
 ところが、現行のグレゴリオ暦では1900年はうるう年ではなく、平年であるため閏日(1900年2月29日)は存在しません。
 これは明らかにExcelのバグです。このため、使うことはないと思いますが、1900年3月1日より前(シリアル値61未満)の日は誤った架空の日付となります。
 このバグは、発売当初からマイクロソフトも承知していたバクで、これは「Lotus 1-2-3」にあったバグに由来しており、いわゆる「バグ互換性」として、初期のExcelに仕様として取り込まれたものが今でも残っています。
 

4.「Windows 3.1」の発売と他社とのシェア争い

 アメリカでは、1990年に「Windows3.0」と「Excel3.0」を、更に2年後には「Windows3.1」と「Excel4.0」をリリースし、新しい機能を追加したバージョンを次々と出していくことでExcelの人気が大幅に高まりました。
 一方のLotusは、この間、Windows対応が遅れたこともあり、表計算ソフトのシェアを次第に落とて行くことになります。
 Excel以外にも、1989年に発売したBorland(ボーランド社)の「QuattroPro(クワトロ・プロ)」などLotus1–2–3の後を追う表計算ソフトもありました。QuattroProは、Lotus1–2–3に非常によく似ていながも低価格で多くの機能を備えた強力な表計算ソフトでしたが、Excelの勢いには勝てませんでした。

 「Windows 3.1」は1992年4月に発売されましたが、日本では、日本語対応の開発が遅れその翌年の1993年5月、日本語版「Windows 3.1」がNEC版(PC-9801用)とMicrosoft版(DOS/V用)として発売されました。

 Windows3.1は、まだMS-DOS環境からWindowsを起動する仕様でしたが、高速化、使用メモリ空間の拡張が図られ、安定稼働したことから、世界中で1億本が売れる大ヒットOSとなり、このバージョンからWindowsは広く普及することとなります。
 Microsoft社は、《Windows》と《Excel》の2つのプログラムに会社の将来を賭けていたので、両方のプロジェクトが成功したことで、Microsoftは名だたる世界企業ととして経営基盤を固めることができました。

5.「Excel ver5.0」でVBA搭載

 Excelには「Excel 2.0」以降、1-2-3のマクロと相互変換機能を備えたマクロ言語が導入されてきました。しかし、一般ユーザーにはマクロ言語が難し過ぎたようです。また、Word、Access何れもマクロ機能はありましが、その言語はバラバラで統一性がない状況でした。
 そこで、マイクロソフトが開発したVisual Basic Ver.3.0をベースにしたVBA(Visual Basic for Application)がExcel ver5.0から導入されることになります。
 ユーザー定義関数の実装や統合開発環境(VBE)が提供され、Excelの拡張性が格段に高まり、Excelを利用したアプリケーションの開発が可能となりました。

Excel ver5.0の日本語版は、1994年に発売され、書店にもExcelの解説本が多数陳列されるようになりました。
私は、この頃にExcelを本格的に身に付けようと思い立ち、Excel本を多数揃えて勉強したことを感慨深く思い出します。
ただ、VBAの学習までには至りませんでした。

6.「Excel 95」を他社に先駆け32ビット化

 「Windows 95」は、1995年8月25日に英語版が12か国で先行して発売されましたが、日本では1995年11月23日午前零時に発売開始され、秋葉原などではマニアが行列をなして買い求めたというニュースが記憶に残っている方も多いと思います。この時に、日本でも完全32ビット化された「Office 95」が同時発売されました。
 Lotus等に先駆け32ビット化されたExcelの発売は、他社同様のアプリケーションに対して大きなアドバンテージとなりました。
 Windows95は急激に普及して、Apple以外のほとんどのパソコンがWindows95を搭載するようになります。そして、Windows95を搭載機の多くがMicrosoft Officeをプレインストールし、これによりMicrosoft Officeのシェアは絶対的なものとなり、WordやExcelがデファクトスタンダードとなりました。